このところベッドの脇に置いて、寝る前に一章づつ読み進めている本があります。
井上ひさしの「東慶寺花だより」。
東慶寺は鎌倉に現存する美しい寺です。鎌倉時代に開かれ、
以降600年にわたって女人救済の駆け込み寺として寺法を継続。
いまは尼寺の風情を残した花の寺として知られます。
数年前、鎌倉を訪れたとき、たまたま行き着いた先が東慶寺の山門で、
その優しい風情に誘われるように内に入りました。
山野の花や草がよく手入れされており、
裏山を覆うように咲く白い岩たばこの美しさに息をのみました。
また訪ねてみたい場所のひとつです。
東慶寺を舞台に語られる「東慶寺花だより」は、江戸時代、
さまざまな事情を抱えて花の寺に駆け込んだ女たちの話です。
不幸から逃げるのではなく、知恵と度胸で夫からの絶縁状を勝ち取る。
江戸の女の矜恃を見ます。
東慶寺の山門の入り口に掲げられた言葉は、
そんな女たちの偽らざる思いのようです。
妻が寺に駆け込んで後、 2年間の厳しい修行に耐えた暁には
夫はイヤでも絶縁状を書かなくてはならぬという法が女達を救ったといいます。