10年前に買って木箱に入ったまま、眠っていた鉄瓶。
思い出して、陽の当たる場所へ。
そもそも鉄瓶は、炭火のやわらかな火力で、
しゅんしゅんと沸かし続けるもの。
ガスのような強い炎に当てると鉄肌がダメになってしまいます。
かと言って、湯を沸かすだけのために炭火をおこすのは
あまりにも手間がかかりすぎ。
そこで、茶事用の電気ヒーターを火鉢に埋め込んで、
なんちゃって炭火。
湯気が立ち始めるまでに、約30分。
ガスならばご飯が炊けてしまう時間です。
でも、心にやさしく響く、シュンシュンという音。
茶釜では、湯が沸く音を「松籟の音」と言いますが、
まさしく茶の心に通じます。
そして、湯を使い終えたら必ず余熱で乾かしておかねばなりません。
内部をサビさせてしまわないための手入れ。
湯を沸かしては乾かす、これを繰り返すうちに内部に湯垢の層が出来て、
錆びなくなります。
湯も見違えるほど美味しくなるそうです。
こうやって鉄瓶を使っていくことを「鉄瓶を育てる」と言うのだそうです。
いいですね。ゆっくりと使っていきたいと思います。
良いものを得ようとすれば、時間と手はかかるのです。
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あたらめて鉄瓶について調べると、
日本人のモノ作りの知恵に感心させられます。
取っ手の部分は中が空洞になっており、湯が沸騰しても
この部分だけは熱が伝わらず素手で持てるように工夫されています。
この取っ手を「袋弦(ふくろづる)と呼びます。
また、内部は高温の炭火で焼かれ、金気止め(酸化皮膜)の処理がされています。
ですから、内部にはふれない、洗わないが鉄則。
これは中国の茶器も同じで、中国では余計なことをする人を
「急須の中を洗う者」と言うそうです。