およそ半世紀前の春のことです。
母がその日のために縫ってくれた藤色のワンピースを着て、
小学校の入学式にのぞんだ朝。
母に連れられて校門に向かっていると、背中をポン!
振りむく間もなく、ひとりの男の子が
にこっ!と笑って、ぴょんと跳ねて、かけていきました。
訳がわからぬ私に、母が笑って言いました。
「あなたが、可愛かったからでしょ」
ほんの数秒間の出来事なのにずっと忘れることなく、
新一年生の春がくるたび思い出します。
思えば、生まれてはじめて抱いた甘い感情だったのかと。
そして先週末、卒業以来はじめて開かれた小学校の同期会。
一番会いたかったのは、ぴょんと跳ねたNくん。
なのに、テーブルの席に着いて開いた名簿の物故者の欄に名が。
半世紀という長き空白を感じた瞬間でした。
想い出の写真の中には、無邪気な笑顔がいっぱい。
「ね、ね、あの時のこと覚えてる?」なんて、
Nくんと笑い合ってみたかった。
懐かしい面々と、しみじみ大人の話ができた
それはいい夜ではありましたが。