入眠用の扇風機を用意する暇を与えず、寝苦しい夏の夜が来た。
冷蔵庫から飲み残しのワインを取り出し、
いったん締めたガラス戸の鍵を開けて庭に出る。
キャンドルを庭石の上におき、
ほたる火のような灯りを眺めながらハミング。
グラス1杯で酔ってしまえる安上がりなひとり酒宴をお開きして
やっと眠りについた翌朝、
朝日新聞の書評のページにこんな一文を見つけた。
「あのね。わたし、木に恋してしまった」
イギリスの女性作家の短編「五月」の書き出しの一行。
むせるように濃厚な緑の匂いのなかにたたずんでいる時の
あの胸をしめつけられるような切なさは、たしかに恋に似ている。
五月に生まれたわたしは、
岩を流れる水音がかすかにきこえる林の木の下に
骨を埋めて欲しいとさえ思う。
土に還り、やがて大樹になる1粒の種の養分になれば本望。
それまでは、目に映る木々たちから
明日も生きていく力をもらおう。なんてね。