先週末、「お能入門講座」の第4回目。
今回は「三輪」を題材にしながら、
能装束のつけ方を実際に見ていただく。
通常は決して見ることの出来ない能の舞台裏。
参加者みんな興味津々で、首がキリンのように長くなる。
一番下に身につけるのは、白装束。
能の舞台は、歌舞伎のように同じ演目を繰り返し演じない。
一日ただ一度きり、一期一会。
そこに強い覚悟のようなものが生まれ、
身を清めて臨む気持ちの表れが「死に装束」。
まるで出陣前の武士の支度をみるよう。
凛々しさにあふれている。
また、着付けは能楽師の手で行うのがしきたり。
舞、謡、鼓、笛に加えて着付けもこなす
能楽師はオールマイティ。
着付けの所作も様式に則って美しい。
衣裳は、あちらこちら紐で結ばれる。
着せる人はキュッと紐に力を入れて「おしまり・・・」と小さな声で問う。
着せられる人は、その締まり具合で良ければ「はい」と答える。
これは、衣裳の着付けにはなくてはならない決まり事。
「締まり具合は、これくらいでいいですか?」との問いかけに、
「はい、丁度いいです」と自分の意志で返答することが、なぜ重要かというと。
たとえば将軍の前で舞っている、その最中。
結んだひもが緩すぎて袴がぽろりと落ちてしまったとする。
または、締まりすぎて気分が悪くなって倒れてしまうこともある。
将軍様の前で、なんと不作法な!ということで、その場で切腹申し渡し。
誰が切腹? 「はい、結び具合丁度いいですよ」と答えた本人が。
つまり、万が一のときの責任の在りかを明らかにしておくという訳です。
なんと、厳しい。能楽師は死ぬ覚悟で舞台に立つのです。
まさに武士道の精神、様式を重んじる日本の「道」。
ストイックなほどに美しさが冴えるのは、日本文化の特性ですね。
装束を着るという行為のなかに、死と隣り合わせにある能の厳しさ。
うちに秘めたる思いの激しさにふれたような気もした。
能を大成させた世阿弥の言葉 「秘すれば花」。
すべてを語らぬ思いの深さ、語らずして思いを伝える表現の豊かさ。
思いは強いほど言葉少なに・・・
恋にも通じるなあ、と俗人の思いはあらぬ方へ。