シニア野菜ソムリエ花井綾美と「広島の大地の旬」をいただきましょう
2008年11月24日
秘すれば花

先週末、「お能入門講座」の第4回目。
今回は「三輪」を題材にしながら、
能装束のつけ方を実際に見ていただく。
通常は決して見ることの出来ない能の舞台裏。
参加者みんな興味津々で、首がキリンのように長くなる。
一番下に身につけるのは、白装束。
能の舞台は、歌舞伎のように同じ演目を繰り返し演じない。
一日ただ一度きり、一期一会。
そこに強い覚悟のようなものが生まれ、
身を清めて臨む気持ちの表れが「死に装束」。
まるで出陣前の武士の支度をみるよう。
凛々しさにあふれている。
また、着付けは能楽師の手で行うのがしきたり。
舞、謡、鼓、笛に加えて着付けもこなす
能楽師はオールマイティ。
着付けの所作も様式に則って美しい。

衣裳は、あちらこちら紐で結ばれる。
着せる人はキュッと紐に力を入れて「おしまり・・・」と小さな声で問う。
着せられる人は、その締まり具合で良ければ「はい」と答える。
これは、衣裳の着付けにはなくてはならない決まり事。
「締まり具合は、これくらいでいいですか?」との問いかけに、
「はい、丁度いいです」と自分の意志で返答することが、なぜ重要かというと。
たとえば将軍の前で舞っている、その最中。
結んだひもが緩すぎて袴がぽろりと落ちてしまったとする。
または、締まりすぎて気分が悪くなって倒れてしまうこともある。
将軍様の前で、なんと不作法な!ということで、その場で切腹申し渡し。
誰が切腹? 「はい、結び具合丁度いいですよ」と答えた本人が。
つまり、万が一のときの責任の在りかを明らかにしておくという訳です。
なんと、厳しい。能楽師は死ぬ覚悟で舞台に立つのです。
まさに武士道の精神、様式を重んじる日本の「道」。
ストイックなほどに美しさが冴えるのは、日本文化の特性ですね。

装束を着るという行為のなかに、死と隣り合わせにある能の厳しさ。
うちに秘めたる思いの激しさにふれたような気もした。
能を大成させた世阿弥の言葉 「秘すれば花」。
すべてを語らぬ思いの深さ、語らずして思いを伝える表現の豊かさ。
思いは強いほど言葉少なに・・・
恋にも通じるなあ、と俗人の思いはあらぬ方へ。


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